「コスモス」
例えばあの時僕が、違った選択をしていたなら
全ては回避出来たのかもしれない。
例えばあの時僕が、もっと大人だったなら
過ちは犯さずに済んだのかもしれない。
世の中の矛盾に心が付いてゆけずに、いつも上の空だった学校帰り。
生きる事とか、自分らしさとか、何もかもが面倒になっていた。
そんな僕を君はいつもあの土手で待っていてくれた。
風が吹き付けるあの土手からは、街が一望できるんだ。
二人並んで街並みを眺める時、君は決まってこう言っていたね
『ここにいるとすごく自分らしくいられるんだ 』
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2005年08月27日 | 美月千作品 | トラックバック:0 | コメント:0
「静かなるバッド・ドリーム」
闇に引きずり込むがごとく、夜風が体中を包み込む。夜露に濡れた雑草を頬に感じ、私は目を覚ました。軽い眩暈に私の視界はぼんやりとしている。仰向けのまま空を見上げるとおびただしい量のぼやけた光が目に入った。再び目を閉じる。もう一度目を開けると私は星空の下にいた。一筋の涙が頬をなぞる様にじらすように、ゆっくりと流れた。
・・・何故だろう・・・。自分自身、その涙の所以は分かりえなかった。其れ程までにその涙は無感情であった。まるで雑草に溜まった雫が頬をつたっているかのようであったが、それは確かに自分のまぶたから流れている・・・涙であった。
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2005年07月13日 | 美月千作品 | トラックバック:0 | コメント:0
「inheritance」
昨年の秋、私はある政治家の講演会に足を運んだ。
日本の将来やら財政建て直しやらについての不安とその解決策について、日曜のお昼に延々と繰り広げられている報道番組に出演している、学歴だけはやけに高いはげ頭達の間に飛び交うような月並みの言葉を並べ、しきりに唾を飛ばしている。
彼が雄叫びを挙げる度に私はアハハと笑った。
随分と熱心に彼の話に耳を傾けていた前の席の初老の女性が私に睨みをきかせているのにも関わらず、私は失笑し続けた。
滑稽だ。実に滑稽だ。まるで喜劇を観ているかのようである。
世襲でお国の代表になっちまったような政治家のお前に日本の何が分かるというのだ。国民の一体何を理解している。
私の頭の中にその様な思い達が駆けめくり、心を通過し、脳ミソへの逆流を遂げて、遂には、〞カレハ、コッケイ〟 という判断を下し、私を失笑へと導いたのである。
私は満足した。この講演会を実に堪能していた。
そもそも私は、このようなこっけい振りを期待してこの講演会に足を運んだのだ。
世間では著名人として名を馳せている人の講演会へと足を運び、その本性とも言うべく 陳腐で面白味の無い言葉しか持たない、いや、持てない彼らの有様を拝む。
ようは粗捜しだ。この根性の曲がり切っているかの様に思えるこの趣味を、私は自分自身で大変気に入っていた。
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2005年05月26日 | 美月千作品 | トラックバック:0 | コメント:0
「傘」
雨音の中に車のエンジン音が鳴り響き、不思議な静寂さをかもし出している。
過ぎ去った昨日を慰めるかのような静寂さである。
寝返りを打ちながら僕は、しばしこの静寂さに身をゆだねた。
それから間もなく、階段を荒々しくのぼる音が聞こえてきた。
僕の夢を破壊する魔物の足音か。臨むところである。
オレの至福の邪魔をする畜生め。今すぐ叩きのめしてやろうじゃないか。
手の平に汗が滲む。握り締めたこぶしにも自然と力が入った。
そして、ついに足音が僕の部屋のドアの前で止まった。
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2005年04月26日 | 美月千作品 | トラックバック:0 | コメント:0